仙台高等裁判所秋田支部 昭和35年(ネ)168号 判決 1961年7月17日
控訴人 今野理喜之助
被控訴人 今野鉄雄 外六名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴人の被控訴人等に対する別紙目録記載の土地賃貸借契約の合意解除および解除についての許可申請手続請求を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人等は、別紙目録記載の土地(以下本件土地という。)について農地法第二〇条による賃貸借契約解約許可申請手続を秋田県知事になし、その解約許可があつたときは、本件土地を控訴人へ引き渡さなければならない。訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人等の負担とする。」との判決を求め、本件土地賃貸借契約の合意解除および解除についての許可申請手続請求(右控訴の趣旨中、賃貸借契約解約許可申請手続を求める旨の申立は、控訴代理人の事実上の主張に照らし、賃貸借契約の合意解除および解除についての許可申請手続を求める趣旨と解される。)を附加し、被控訴人今野鉄雄および同藤井豊は、控訴棄却の判決を求めた。
控訴代理人ならびに被控訴人今野鉄雄および同藤井豊の陳述した事実上の主張は、控訴代理人において、本訴請求は本件土地利用契約が賃貸借契約であることを前提とするものである、と附加主張したほかは、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。その余の被控訴人等は、原審および当審における口頭弁論期日に出頭しないし、事実上の答弁を記載した答弁書その他の準備書面をも提出しない。
当事者双方の証拠の提出、援用および認否は、被控訴人今野鉄雄において乙第七号証を提出し、控訴代理人において同号証の成立を認めると述べたほかは、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
理由
本件土地を控訴人が所有すること、被控訴人等先代今野源五郎が昭和三一年一〇月二一日死亡し、被控訴人等がその権利義務を承継したこと、昭和一六年頃から被控訴人等先代今野源五郎が本件土地を耕作していたことは、控訴人と被控訴人今野鉄雄および同藤井豊との間には争いなく、その余の被控訴人等は控訴人の主張事実を自白したものとみなす。
控訴人は、被控訴人等先代今野源五郎との間において昭和一六年二月一四日締結した和解契約の一内容として、本件土地を賃貸したが、昭和三一年九月中右和解契約ないし本件土地賃貸借契約は被控訴人等先代今野源五郎との間で合意解除されたので、これを理由として、被控訴人等に対し、本件土地賃貸借契約の合意解除についての許可申請手続およびこれによる許可を条件とする本件土地の引渡を求める旨主張する。
本件土地は、右自白および擬制自白に係る耕作の事実および弁論の全趣旨によると農地であることが認められるから、控訴人主張の本件土地賃貸借契約は農地に関するものである。農地法第二〇条第一項は農地の賃貸借の当事者は都道府県知事の許可を受けなければ賃貸借の合意解約をしてはならない旨規定し、同条第五項は許可を受けないでした行為はその効力を生じない旨規定し、また同条による許可の手続を定める農地法施行規則第一四条第三項は許可申請書は賃貸借の合意解約をしようとする日の三箇月前までに農業委員会に提出すべき旨規定しているので、農地賃貸借契約の合意解約と実質を同じくするその合意解除が効力を生ずるには事前にあらかじめ都道府県知事の許可を受けることを要し、許可を受けないでした合意解除は絶対無効であつて、事後に許可があつても、農地賃貸借契約終了の効果を生じないものといわねばならない。事後的許可によつては合意解除がその効力を生じない以上、許可を受けないでした合意解除により、その当事者がこれについての許可申請手続に協力すべき義務を負担するいわれがないこともとよりである。そうだとすれば、控訴人主張のような合意解除があつたとしても、控訴人主張の和解契約の一内容をなしている本件土地賃貸借契約の合意解除について許可を受けていないことは控訴人の主張自体から明らかであるから、本件土地賃貸借契約に関する限りでは右合意解除は絶対無効であり、これにより被控訴人等先代今野源五郎が本件土地賃貸借契約の合意解除についての許可申請手続に協力すべき義務を負担するはずなく、被控訴人等がその義務を承継することもないから、控訴人の被控訴人等に対する合意解除についての許可申請手続請求は理由がない。合意解除についての許可を条件とする本件土地引渡請求は、控訴人主張の和解契約ないし本件土地賃貸借契約の合意解除を前提とするものであるところ、本件土地賃貸借契約に関しては合意解除が絶対無効であること右のとおりであるから、控訴人がその主張のような条件附本件土地引渡請求権を取得することはないので、右請求も失当といわねばならない。
さらに、控訴人は、原審において、被控訴人等に対し、履行不能を原因として、本件土地賃貸借契約を一内容とする和解契約を解除する旨の意思表示をしたことを理由として、被控訴人等に対し、本件土地賃貸借契約についての許可申請手続およびこれによる許可を条件とする本件土地の引渡を求める旨主張する。農地法第二〇条、同法施行規則第一四条によると、農地賃貸借の解除についての許可申請は、解除の意思表示をしようとする当事者が単独ですることができるのであるから、解除の意思表示の相手方が許可申請手続に協力する余地なく、また必要もないので、相手方が、解除により、これについての許可申請手続協力義務を負担することはない。したがつて、控訴人主張のように、本件土地賃貸借契約を一内容とする和解契約解除の意思表示があつたとしても、本件土地賃貸借契約に関する限りでは、右解除により、被控訴人等にこれについての許可申請手続協力義務が生ずることはないから、控訴人の被控訴人等に対する解除についての許可申請手続請求は理由がない。解除についての許可を条件とする本件土地引渡請求は、控訴人主張の和解契約の解除を前提とするところ、その和解契約の一内容をなしている本件土地賃貸借契約の解除について許可を受けていないことは控訴人の主張自体から明らかであるから、右解除は、本件土地賃貸借契約に関する限り、農地法第二〇条、同法施行規則第一四条の規定の趣旨からみて、許可を受けないでした合意解除と同様、絶対無効というべく、右請求も排斥を免れない。
以上のとおりであるから、本件土地引渡請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がなく、当審において訴の変更により附加した本件土地賃貸借契約の合意解除および解除についての許可申請手続請求もまた理由がない。
よつて、民事訴訟法第三八四条第一項、第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 林善助 石橋浩二 佐竹新也)
目録
秋田県仙北郡協和村峰吉川字西窪二〇番地
一 田 二畝一七歩 内畦畔三歩
同字二二番
一 田 五畝六歩 内畦畔六歩
同字二四番
一 田 五畝六歩 内畦畔六歩
同字二四番の一
一 田 五畝六歩 内畦畔六歩
同字二五番
一 田 五畝六歩 内畦畔六歩